−最新の話題− これからはルナベルULDが主役か?


2014年9月よりルナベルULD(超低容量)の投薬期間制限がなくなりました。

 

いままで、ルナベルULDは新薬だったので、一ヶ月間しか薬が処方してもらえませんでしたが、これからは長期処方が可能になりました(日本医大では6ヶ月まで)。

 

 この薬がどんな薬かと言いますと、月経困難症(生理痛が強いと自覚する方)の患者さんに対して、保険で処方できる薬です。飲むと生理痛が弱くなります。それと、避妊効果もあります。

 

 薬の飲み方ですが、この薬は21錠入ったシート状になっています。初めて飲むときは、月経1−5日目に最初の薬を飲み始めます。21錠飲み切ったら、一週間休薬します。その間に生理が来ます。一週間経ったら、自動的に次のシートを飲み始めます。その繰り返しです。

 

 その薬のシートが今迄一枚しか処方出来なかったのが、6シート(日本医大)まで処方できるようになったということです。

 

 この薬のいいところは、従来の薬よりも含まれている女性ホルモン(エストロゲン:エチニルエストラジオール、20ug)が少ないため、吐き気や、重篤な血栓症の発生率が少ないと期待されることです。正、シートの後半に不正出血が多くなるのが難点です。

 

 このルナベルと同じような薬として、以前からあるヤーズと言う薬があります。このヤーズも超低容量ですが、これを内服後に亡くなられた患者さんがでた事から(下記の記事を参照)、すこし出しづらい状態が続いています。したがって、これからは、月経困難症の治療としてルナベルULDが多く処方されるようになるのでは無いかと思います。

 

 しかし、実際のところは、ルナベルもヤーズも血栓症の発生率に関しては変わらないのではないかというのが私の考えです(詳しくは下記の記事参照)。

 

では、ルナベルULDとヤーズの使い分けをどうしたらいいか?と言うと。

 

 ざっくりですが、新しく月経困難症でピルを飲み始めるならこのルナベルULDで始めます。不正出血が続いた場合は、エストロゲンの量が少し多いルナベルLD(35ug)に変更するか、ヤーズに変更します(ヤーズは休薬期間が短いので、トータルでは1シートのエストロゲンの含有量はルナベルULDよりも多くなります)。

 

 ただし、ニキビ等の男性化の症状がある場合は、はじめからヤーズを処方します(理由は下記参照)。

 

追伸、極最近、ルナベルの自主回収騒ぎがありました。その内容は、シートのパッケージの問題だったらしく、薬そのものの問題ではなかったとの事です。この件は、これ以上気にしなくても良いと思います。

 2014.10.22 記載

月経困難症・子宮内膜症に対する薬物治療

 最近、月経困難症の治療薬である低容量ピル(ヤーズ)を内服

していた患者さん、3名が亡くなられたとの報告がありました。

 

 この報道を通して、ヤーズを飲んでいらっしゃる多くの患者さんが不安を感じて、病院にいらっしゃいます。はたして、ヤーズ(他の低容量ピルも含めて)は大丈夫なのでしょうか?

 

結論から言いますと・・・

 

 ”ヤーズは他の低容量ピルに比較して、血栓症を起こし易い”と指摘する論文が多い!!!   

 

 実は、今回のヤーズ内服中の死亡例の原因と考えられる血栓症は、どんな低容量ピルでも起こりえます。しかし、ヤーズの血栓症の発症率は、他の低容量ピルに比べて、約2-3倍と報告する論文が多い。

 

 したがって、ヤーズは、他の低容量ピルよりも、若干血栓症を起こし易い薬と言えるのです。しかしながら、その増加率は、必ずしも高く有りません。妊娠に伴なる血栓症の増加率よりも、ずっと低い値です。必要以上の心配は、無用かもしれません。とは言え、ヤーズ内服中の死亡例が起こった事も事実でありますから、他の薬剤への変更を希望する方が多くなるのも必然的な事でしょう。

 

 それぞれの薬には、一長一短があります。また、相性というのも有ります。したがって、低容量ピルの薬を選択する際は、自分の飲む薬の長所と欠点を理解した上で、選択することが重要です

それでは、ヤーズの他にどんな低容量ピルがあるのでしょうか?

 

現在、ある低容量ピルのいくつか上げてみます。

  • トリキュラー
  • ルナベル
  • アンジュ
  • マーベロン
  • ヤーズ

等です。

 

 この中で、月経困難症等の治療薬として保険が効く低容量ピルは、ルナベルヤーズであります。他の低容量ピルは、自費の避妊を目的とした薬であります。(ちなみに、患者さんが実際に払う金額は、どちらも、一ヶ月で2千円ぐらいです)

種類が多いけど、何が違うの?

 

 大きな違いは、薬に含まれる二つの成分の内、一つが違うのです!!

 

 低容量ピルには、エストロゲンとプロゲステロンの二種類のホルモンからなります(どれも天然では有りません、合成です!)。エストロゲンについては、どの種類のピルでも一緒、すなわち同じです!!! 大きな違いを生むのは、もう一方の成分であるプロゲステロンの方です。

 

 実は、このプロゲステロンがくせ者です。低容量ピルの歴史は、このプロゲステロン成分の進化の歴史といっても良いでしょう。

 実は、プロゲステロンには、本来の働きである黄体ホルモン作用(基礎体温でいう高温期をつくる)の他に、男性ホルモンに似た作用があります。そして、この男性ホルモン作用が、いろいろな問題(体重増加・ニキビ・脂質代謝異常・動脈血栓等)を起こしました。その男性ホルモン作用が高いプロゲステロンが、初期のピルには使われていました。したがって、本来の黄体ホルモン作用を強化して、かつ男性ホルモン作用を極力減らすべくして、プロゲステロンは、第1世代、第2世代、第3世代、第4世代とどんどん新しくなっていきました。

 

 ルナベルは第1世代、ヤーズは第4世代になります。すなわち、ヤーズの方が男性ホルモン作用をほとんどもたないプロゲステロンを持つ新しい薬なのです。

 

 したがって、市場に出てきた際に、ヤーズはかなり好感をもって迎えられました!! 

 

ヤーズは新しい薬なのに、なんで血栓症が多いの?

 

 原因は、わかりませんが、男性ホルモン作用を極力抑えた結果、血栓症のリスクが、若干、上昇?したとも言われています。統計的なデータによると第1世代(ルナベル)と第4世代(ヤーズ)のプロゲステロンを含む薬の内服による血栓症のリスクは、第4世代において2−3倍高いという報告が多くなっています

 

 BMJ 2011;343:b6423より抜粋

 

 

ヤーズでどのくらい血栓症が起こるの?

 

 血栓症は、ピルを飲んでいない人にも起こります。その頻度は、1年間に、10,000人につき、2人の割合で起こります。それが、ルナベルに含まれる第1世代のプロゲステロンを含む低容量ピルを飲むと10,000人につき、4ー5人と増加します。ヤーズに含まれる第4世代のプロゲステロンを含む低容量ピルを飲むと10,000人につき、12人位に増加します。

 

 

 

他の低容量ピルの血栓症の発生率はどうなの?

 

 先に上げた低容量ピルのプロゲステロンを分類してみます。

これは、ピルを飲んでいない正常な方の血栓症の発生リスクを1としたときの各プロゲステロンの血栓症の発生リスクを表したものです。

 

 

第一世代

ノルエチステロン

第二世代

レボノルゲストレル

第三世代

デソゲストレル

第四世代

ドロスピレノン

代表的なピル ルナベル トリキュラー マーベロン ヤーズ
血栓症の発生リスク 約2.2倍 約2.9倍 約6.6倍 約6.3倍
Lidegaard et al., BMJ2011;343:b6423より
この結果だけを見ると、古いプロゲステロンを含む低容量ピル:ルナベル、トリキュラーの方が、血栓症が少ないと言えます。皮肉な感じですが・・・。

私たちは、どうしたらいいの!?

 

A. やっぱり安全性が第一!!!


 今回の一連の死亡例の報告を受けて、今後の低容量ピルの処方をどうするかにおいては、医師間において、かなり差があると思います。

 しかし、やはり、安全性が第一です。どんなに優れた薬でも、命を起こす事があっては、取り返しがつきません。私自身も、今回の事例には、大きな影響を受けた医師の一人です。

 

そこで、現在の私の治療指針をお伝えします。

 

月経困難症・子宮内膜症、あるいは、避妊目的の方に対する

ファーストチョイスは、第一世代、第二世代のプロゲステロンを含む、ルナベル、トリキュラーを処方します。

 そして、体重増加やニキビ、嘔吐等の副作用で、これらの薬が合わない方に関して、第三世代、第四世代のマーベロン、ヤーズを処方します。

 また、最近、さらに、血栓症のリスクを下げた超低容量ピルであるルナベル(ULD)も発売されており、今後の処方の増加が見込まれます(新しい薬なので、2014年8月までは、一度に、一ヶ月分の処方しか出せません)。

 

これらの第三世代、第四世代の低容量ピルの処方を制限する方針は、フランスでも取られているようですので、今後、日本に置いても、その傾向が出てくると思います。

 

 

 

 

ところが・・・、

 

 以上が、私の当初の解釈でした。

 確かに、ヤーズは他の低容量ピルより、血栓症の発生率が高いという報告が多いのは事実です。そして、いろいろなネットの情報を見てもそれに同調する論調が多いです!!!

 

しかし、よくよく調べてみると、実は、最も信頼のおける研究データ(RCT)の結果を扱った論文では、第四世代のプロゲステロンを用いた低容量ピルの血栓症の発生率は、他と変わらない!!!

という結果でありました。 

 

 そんな、事はないだろうと、思っていましたが、思い当たる節があります。それは、実は、歴史的に、血栓症の発生は、ピルに含まれるエストロゲンの量に比例するという事が示されているのです(これはほぼ確実!!)。つまり、血栓症を起こす主犯はエストロゲン:すなわち、低容量ピルに含まれている合成エストロゲンの量なのである。したがって、各種類の低容量ピルにおける血栓症の発生率は、それらに含まれる合成エストロゲンの量に比例するはずなのです。

 

 

  ルナベル トリキュラー アンジュ ヤーズ

ルナベル

(ULD)

エストロゲン量

35ug

35ug 35ug 20ug 20ug
分類 低容量 低容量 低容量 超低容量 超低容量

 

 ここに示したのは、各低容量ピルに含まれるエストロゲンの容量を示しています。エストロゲンの含有量が最も少ないピルが最も血栓症のリスクが少ないとすると、最も血栓症のリスクが少ないピルは、ヤーズとルナベル(ULD)という結果になります。

 

 

また、それぞれのプロゲステロンの単材の薬、例えば、ミレーナ(第二世代のプロゲステロン)、ディナゲスト(第四世代のプロゲステロン)は、あまり、血栓症を起こさない事が知られている。

 これらの事を総合すると、低容量ピルにふくまれているプロゲステロンは、血栓症の発生には、あんまり関係ないと推測される(反対意見もあるが・・・)。

 

したがって、現在の私の結論は、

 

”ヤーズの血栓症の発生率は、エストロゲンの含有量が同じ、低容量ピルとの比較であれば、変わらないであろう”

 

というものである。

いろいろ、反対意見も有るだろうが・・・

じゃ、実際の処方はどうするかというと・・・

 

”とはいっても、世間的に騒がれているヤーズを、今、第一選択で処方しづらい”

 何とも、なさけない姿勢ですが、世間の持っているイメージは大きな要因です。現在、多くの医者が同じ思いでしょう・・・。

 

 低容量ピルにおける血栓症発症予防の根本的な解決法は、合成エストロゲンではない天然型のエストロゲンを含んだピルの使用であると考えられる。これを使用すれば、おそらく血栓症の発生率は、正常とかわらない頻度になるであろう。

しかし、残念ながら、現在、日本ではまだそのようなピルは発売されていない。

 日本でも、早く発売される事を期待している。