今後、手術を受ける方へ

メッシュ手術をとりまく現状

 近年、骨盤臓器脱の世界程、その治療法が大きく変化していった領域はないのではないかと思っています。

 その大きな要因は、メッシュ素材の登場とそれを用いた腟式メッシュ手術の登場です。しかしながら、その爆発的な普及とともに、メッシュに伴う合併症の報告が増えているのも事実です。

  

 現在、米国においては、腟式メッシュ手術の安全性に対して、FDA(アメリカ食品医薬品局)から二回にわたる(2008年、2011年)注意喚起がなされました。これによって、米国においては、腟式メッシュ手術が減少して、逆に、腹腔鏡下仙骨腟固定術の実施が増えている現実があります。

 

 この動きは、対岸の火事ではなく、日本においても大きな影響を与えました。そして、腟式メッシュ手術一辺倒だった日本の骨盤臓器脱治療に大きな変化が見られたのです。すなわち、我々の施設でも行っている腹腔鏡下仙骨腟固定術に、今、大きな注目が払われているのです。今後、急速な拡大を見せる可能性を示す。

 

 しかしながら、長い間、この腹腔鏡下仙骨腟固定術に携わってきた私の意見としては、メッシュ手術は、腟式メッシュならリスクが高くて、腹腔鏡下仙骨腟固定術ならリスクがないという事ではありません。メッシュを使用する手術にはリスクも伴うであるという認識が重要だと考えています。

 

 

FDA(アメリカ食品医薬品局)の注意喚起の内容

 ここで、骨盤臓器脱の治療として、メッシュを用いる術式を適応する際の条件について考えたい。というのも、2011年の米国のFDAにおけるTVM法の安全性への注意喚起の後、日本においても、メッシュ手術の適応はより厳格に判断されるべきだからである。

 米国のFDAから発表された腟式メッシュ手術の注意喚起の内容をまとめると以下のようなものです。

 

I.               メッシュ手術には、メッシュ露出等の従来法では認められなかった合併症の発生が起こりうる。

II.             メッシュを留置する際は、経腟に行うよりも、腹式に行う方が合併症は少ない。

III.           経腟メッシュ手術は、子宮脱・腟脱の補強、あるいは直腸瘤を補強するという十分なエビデンスはない。

IV.          前壁メッシュ(膀胱瘤)に対しては、解剖学に優れた治療効果を示す。

 これらを簡単にまとめると、経腟メッシュ手術は、膀胱瘤に対して前壁メッシュを行い。後壁メッシュは使わない。子宮脱に対しては、腹腔鏡下仙骨腟固定術の方がよい!という事になります。

 

 そうです、これは、現在の当院における脱手術の基本方針と一緒なのです。ただし、これだけだと不十分なので、従来法(非メッシュ手術)を足りない部分に補います。

 

 我々が、考える理想的な骨盤臓器脱手術とは、治療のポイントとなる重要な部分は、メッシュ手術を用いて、その他の部分には従来法を有効に利用して、最小限のメッシュの使用で、最大限の効果を発揮させる事であります。

 

 したがって、これから、メッシュ手術を受ける方へメッセージです。メッシュ手術を受ける事は、メッシュ手術特有のリスクも伴うということです。皆さんは、様々な選択肢のなかから治療法を選ぶことができます。良く考えて自分が納得できる治療法を見つけてください。