メッシュ手術は最も難しい手術であると私は思っております。私自身、難しい深部子宮内膜症、子宮癌手術等、もっと時間のかかる手術もしますが、それらと比較しても、メッシュ手術が最も難しい手術だと考えているのです。なぜなら、メッシュ手術には、予測できない次の二つのリスクがあるからです。
①術中の出血のコントロール (術中の問題)
②-1 メッシュ露出(長期的な問題)
これは、主に腟式メッシュ手術(TVM法)の際に問題になってきます。実は、腟式メッシュ手術には、メッシュを骨盤内に留置する際に、盲目的な(指の感覚をガイドに)針を骨盤内に穿刺します。この際に、予想外の大出血をする事があります。大量出血は、滅多に起こりませんが、一度起こるとかなりのベテランでも肝を冷やす位出ます(実際、私も、何度か経験済みです)。したがって、要注意です。
どうやったら、防ぐ事が出来るかというと、これがなかなかいい方法がありません。骨盤内の血管の位置は、かなり個人差があるため、同じような手術手技であっても、出血が多くなるときがあるのです。これは、腟式メッシュ手術の宿命かもしれません。
いずれにしても、手術のベテランになればなるほど、出血のリスクも減り、出血への対処にも慣れています。また、総合病院で手術を受ける場合は、危機的出血の際に、他科(血管内治療で、出血部位を同定して止血する等)との連携も取れるのでより安全かも知れません。病院選びの一つのポイントになると思います。
なお、腹腔鏡下仙骨腟固定術は、腹腔内をカメラで観察しながら手術を行うので、血管損傷による大量出血のリスクは非常に低いと思います。また、万一、出血しても出血部位がカメラで確認できるため、十分に対応できます。したがって、腹腔鏡下仙骨腟固定術では、出血の心配はほとんどしておりません。
これは、メッシュ手術(腟式メッシュ手術と腹式メッシュ手術における共通の問題です。ちなみにメッシュは、体内で溶けたり、無くなったりしません。したがって、メッシュ手術を受けた方は、生涯メッシュを体内に保持する事になります(逆に、だから効果が長持ちするのです)。
その体内に埋没されたメッシュが何らかの理由で腟内、膀胱内、直腸内に出てくる事をメッシュ露出と我々は読んでいます。その発生率は、決して高くないのですが、露出した場所によっては、著しく患者さんのQOLを損なう事があります。そして、残念ながら、この発症は予測できません。そして、どんなに完璧な手術をしたとしても、未来永劫にメッシュびらんは起こらないと断言はできないのです。この点が、私がメッシュ手術が非常に難しい手術であると考える大きな理由であります。
腟内へのメッシュ露出率は、腹腔鏡下メッシュ手術の方が、腟式メッシュ手術より低くなっています。それが、現在、腹腔鏡下メッシュ手術の人気が高くなっている大きな原因の一つです(ただし、それはこの術式を熟知した医師のもとに手術がなされた場合です)。ただし、膀胱・直腸へのメッシュの露出は、その発生頻度が非常に低いので、実際のリスクはまだ未知の部分が多いと思っております。
メッシュ素材(ポロプロピレンメッシュ)が登場してから、実は、まだ、30年ぐらいしかたっておりません。骨盤臓器脱へのその利用も、まだ、
メッシュ手術の歴史は、まだ、繰り返しますが30年ぐらいです。もっと詳しくいえば、TVM手術の歴史は約10年です。腹腔鏡下仙骨腟固定術は、約20年(開腹手術時代も含めると30年)です。ということは、手術でいれたメッシュが30年後、40年後にどうなるかは、本当のところはわからないと言わざる終えません。ということは、何かトラブルがあったら留置したメッシュを除去する必要があります。しかし、実際には、このメッシュを除去するのはメッシュを留置するのより格段に困難です。
私ども、他施設(当施設での施行した患者も含めて)でメッシュ手術をした後のメッシュ除去術を何度か行っておりますが、毎回、かなりの覚悟を持って手術にあたっております。幸い、現在まで、メッシュ除去が必要なすべての手術で、無事、メッシュを除去し得ております。このように、メッシュ手術には、その高い有効性とともにメッシュを体内に入れることに伴うリスクを十分理解した上で手術を受ける必要があります。そして、手術を行う医師も、そのリスクを十分理解し、必要な場合は、メッシュを除去する能力を持つ必要があります。
メッシュ手術を既に受けた方は、術後、最低でも5年間ぐらいは、定期的に医師の診察を受けた方がいいでしょう。それ以降も、メッシュ露出は発生する可能性があるので、二年に一度ぐらいは病院を受診した方がよいでしょう。