神の手、カメの手、鶴折る手

世の中には、“神の手”と賞賛される名医が存在する。

その手で、不可能と思われるような手術を行う。

スーパードクターだ。

 

でも、そのスーパードクターにも、

はじめて、メスを握った瞬間は必ず存在する。

そう、全ての外科医には、はじめて手術をする瞬間があるのだ。

 “初メス”と呼ばれている。

(患者さんにとっては、たまったものではない…が)

 

その意味では、すべての医者の始まりが平等だ。

だけど、その極一部だけがスーパードクターになっていく。

なぜだろう?

 

人一倍、

器用なのだろうか?

手が早く動かせるのだろうか?

センスがあるのだろうか?

 

人一倍、

負けず嫌いなのだろうか?

他人を蹴落としてのし上がったのだろうか?

メディアに出るのが好きだからだろうか?

 

多分、どれも少しずつ当たっている。

でも、最も違うのは、

彼らが、

 

人一倍、十倍、いや百倍

練習しているからだ。

 

“一万時間のルール”というものが存在する。

 

これは、誰でも何でも一万時間練習すれば、

プロになれるというユニバーサルな法則だ。

 

よく小学生でプロ級のピアノ演奏をする天才がいる。

 

でも、実は、天才だったからではない。練習したからだ。

 

一万時間は、

一日三時間練習すると、10年かかる。

 

一日六時間練習すると、5年で達成できる。

なかなかだ。

 

5歳からピアノを始めて、

1日6時間練習を続けて5年、

10歳で天才ピアニストだ。

 

もちろん、だれにでも出来る事ではない。

いや、だれにでも出来る可能性はあったのだが、

続けられなかったのだ。

 

そして、

それらの子供達を、

 我々一般人は、自分たちは不幸にも持ちあわせていなかった

“特別な才能を持っている天才”として賞賛する。

 

 

今、医者は非常に人気な職業である。

だから、テレビ業界でも、医療ものをよく見る。

 

だからか、医者を目指す若者も多い。

そして、医学部に入学することは困難を極める。

だから、一万時間以上かけて“受験生のプロ”になり医学部に入ってくる。

想像を絶する努力だったであろう。

 

しかしだ。

医者になった後、

彼らが、初メスする時に、

医学部受験の前のような死にものぐるいの努力をしているだろうか?

最近、私はそういった熱い姿を殆んど見てない。

 

私は、腹腔鏡の手術を専門としている医師である。

昨年より、日課として一日一匹、腹腔鏡で鶴を折っている。

千羽鶴を目指している。いままで、200匹ぐらいはつくった。

 

その光景をYou Tubeに投稿したところ、テレビ朝日のドクターズ③スタッフから撮影協力の依頼があった。そして、亀を作らされるハメになった 笑)

 

なぜ、そんな事をはじめたかと言うと、

“自分の手で一般的にできる事を腹腔鏡で出来なきゃ手術には使えない”

と思ったからだ。

 

私の中で

一般的にできる事=折り鶴

だった。

だから、折りだした。

 

実は、腹腔鏡をやり始めた10年頃前にもトライしたが、

あえなく挫折。

今回は、リベンジ。

そして、最初は、1時間以上かかっていた事が、いまでは

ベストが8分41秒になった。やはり練習効果は絶大。

腹腔鏡の基本動作をマスターするには、鶴は最高だ。

 

皆さんは、

“腹腔鏡で鶴を折る事がどれほど難しいか?”

想像できないと思う。

 

でも、本当に難しい。

 

現在、腹腔鏡手術をかなりやっている人でも、

ほとんど出来ないのが現実。

試しに、自分の主治医に聞いてみてもいい…。

(鼻で笑われ、気分を害するかもしれないので要注意!)

もし、そんなの簡単だと言ったら、その先生は大したものだ。

 

 

これから内視鏡手術を専門にしたいと思う若い医師にぜひ伝えたい。

 

もし、あなた方がこれから腹腔鏡手術を初めて行うなら、

“腹腔鏡で鶴ぐらい折れるようになってから、患者さんのお腹の中をいじりなさい”。

 

そして、

 

1000羽作って、神頼みではなく、あなたの神の手で、患者さんを治してあげてほしい”と

 

腹腔鏡の鶴が皆さんの幸福につながることを祈っております。

 

 

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コメント: 1
  • #1

    はたにー (木曜日, 05 3月 2015 00:09)

    はじめまして、先生の動画を見て一念発起し鶴にチャレンジしている1年目研修医です
    練習を初めた当初は到底無理かと思いましたが、1ヶ月でようやくきちんと形のある鶴を折れるようになりました
    質問なのですが、先生は鶴を早く折ることときれいに折ること、どちらを重視して練習すべきと思われますか??
    僕はどちらかというと丁寧にきれいに折ることの方が得意なのですが、先生のように早く折ることは苦手みたいです