”医志(師)も学費には勝てない”という話

【“医志(師)も学費には勝てない”という話】

 

新人医師として大学病院の医局に入った頃に不思議に思ったことがある。

それは、医師として脂の乗った45歳ぐらいの多くの医師が大学を去っていくことだ。

 

有るものは、何も言わずに去っていく。

有るものは、医局の悪口を散々いって去っていく。

そして、有るものは、少し寂しそうに去っていく。

 

そういった先生達は、

十数年の歳月を大学病院に捧げてきた。

自分の夢と医師としての志を遂げるために大学病院という

最先端の医療や研究の行うことのできる舞台で戦ってきたのである。

それがなぜ、志半ばでさっていくのだろうか?

と何も知らない私は不思議に思っていたのである。

 

そして、ある意味、

私は彼らを “敗者”とさえ見ていたかも知れない(ごめんなさい)。

 

しかし、よくよく話を聞いていると、そういった先生達に

存在する共通の悩みがあることがわかった。

 

それは、彼らの子供達が大きくなり、

大学受験をする年齢になったことだ。

そして、その子供達が“医者になりたい(あるいはさせたい)”

と言うのである。

親としては嬉しいだろう。

自分と同じ職業を子供が目指してくれるのは。

 

ただし、ここに一つ大きな問題が生じる。

私立の医学部に行くには大金がいる。

6年間の学費だけで最低でも3000万円かかる。

 

そして、残念ながら、

大学病院の給料ではとても出せない額である。

(一人なら可能かも知れないが、二人はかなり厳しい)

もし、自分が国立大学の医学部出身なら、

 子供達に“国立の医学部に行きなさい”

といえるかも知れない。

 

しかし、私のように私立の医学部に入った者は、

(例外なく3000万円かかったクチ、しかも私の兄も)

 

子供には“国立に行け”とはとても言えない。

 

そうなると、選択肢は限られる。

“自分が大学を去って、より高収入な仕事に就く”のだ。

 

つまり、“医志(師)も、学費には勝てない”のである。

(奥さんのプレッシャーにはかもしれない)

 

とはいえ、そんな決断をした医師達は、 “子供達、そして奥さんのヒーロー”であろう(というか、であってほしい)。

 

単なるキャシュマシンだとしたら、あまりに寂しい…。(とても“笑”えない)

 

かくいう私も、今年47歳になる。

 

3年後には大学受験を迎える子供がいる。

さらに、3歳になる娘もいる。

そして、子供が合計3人。

さらに、介護しなければならない可能性のある親も3人程いる…。

 

厳しい挑戦は続く…。